寄らば大樹の陰の精神

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多くの人間は口先では「自由な行動と価値観の多様性を容認する社会が良い」といっても、至上理念や最高価値に容易に誘惑されるという弱さを併せ 持っていることは歴史を振り返るまでもないだろう。

それは、進化生物学的に考えて、反骨精神よりも寄らば大樹の陰の精神のほうが適応度(生存可能性)を高 めるからだし、心理学的に考えても、集団からの疎外感や既得権益からの脱落という不安や恐怖を回避する有効な選択だからである。

藤原正彦という人が「国家の品格」なる著書を著してベストセラーになっていたが、安倍晋三の「美しい国」と「国家の品格」で描かれた国家観や国民 像は近似している。社会的権威や伝統的道徳を復興して、かつての階層的な礼節と秩序によって国家を再建すれば、財政・教育・治安・外交関係などの問題が解 決に向かうという言わば国家主義的なユートピアニズムである。

このユートピアニズムを実際の政治に活かそうとすると、国家・民族・歴史という至上価値を定立して、その価値基軸の範囲内で各個人の行動や思想の 自由を認めるという法治国家に行き着くことになるが、価値観の多様化や行動の自由化に逆行する思想なので、排外主義や統制主義へと傾斜する恐れを少なから ず孕んでいる。